「こちら特報部:『江戸しぐさ』史料の裏付けなし」『東京新聞』2015年4月6日

こちら特報部:『江戸しぐさ』史料の裏付けなし」『東京新聞』2015年4月6日
国や自治体がもてはやす
道徳の教材で学ばせる
伝統を隠れみの「科学軽視危うい」



傘かしげ「必要なし」=和傘すぼめやすい。


江戸しぐさ」なるものが、小学校の道徳教育や自治体の市民講座でもてはやされている。
江戸時代の商人たちが人間関係を円滑にするために培ってきた生活マナーらしいが、存在を裏付ける史料は存在をしておらず「ニセ歴史」との批判も。
発信源はNPO江戸しぐさ。国や自治体はこの主張に乗っかっていた
都内のある小学校は、11年度から生活指導に活用している。
げた箱上の壁には、さまざまな江戸しぐさを解説した紙が貼られている。15年度からは毎月「重点江戸しぐさ」を指定。「お掃除しぐさ」の月は整理整頓、、

江戸しぐさブームの立役者はNPO法人江戸しぐさ」の越川禮子名誉会長。最初に提唱したのは企業コンサルタント芝三光氏。70年代半ばに「江戸の良さを見直す会」をつくった。芝氏は80年前後から「江戸しぐさ」という言葉を使い始めたという。越川氏は芝氏を「江戸しぐさの唯一の伝承者」と称する
文科省の道徳教材で描かれる江戸しぐさは、芝氏の「研究」に沿っている。自治体の講座では、NPO法人の関係者が講師を務めるケースが多い。道徳教材の編集は、文科省有識者会議の下に設置された作業部会の小学校高学年用チームが担当した。
主査を務めた馬場喜久雄・元総合初等教育研究所室長は「NPO法人江戸しぐさのホームページなどを参考にした」と証言する。
では、芝氏らの「研究」は信頼できるのか。越川氏は、江戸しぐさの存在を裏付ける史料を示さない。江戸しぐさは江戸商人の間で語り継がれた「口伝」。
幕末・明治維新期に薩摩・長州勢力による「江戸っ子狩り」が行われ、町人が各地に逃げ隠れた。だから伝統が途絶えてしまったのだとか。

江戸しぐさの正体』(星海社新書)の原田実氏は「江戸っ子狩りとは、薩長の子孫からすればぬれぎぬもいいところだ。あり得ない」。
江戸しぐさ自体についても「江戸時代には傘かしげは必要なかった。和傘はすぼめやすい構造だからだ。複数の人が長いすに座る習慣はなく、こぶし腰浮かせの必要もまずなかった。当時の生活であり得ない状況ばかりを想定している」。
原田氏の著書に越川氏は「変な本が出ている。史料がないと言うが、私は学者ではない」と反論した。
ただし、文科省側は、「江戸しぐさ批判」に戸惑いをかくせない。「道徳教材はNPO法人の主張を参考にしていない。江戸しぐさが歴史的な事実だとは言っていない」と強弁も(教育課程課・美濃亮課長補佐

なぜ検証ないまま拡散⁉︎
「芝氏から伝え聞いたこと以外に客観的な証拠がないゆえに、一定の説得力が出てくる。未確認飛行物体(UFO)を信じるカルトや一部偽史とも類似するこうぞうだ」(原田実氏。在野の研究者にすぎない私が批判せざるを得ないほどのアカデミズムの無関心ぶりは残念だ。

江戸の町人がの生活に詳しい立正大の高尾善希非常勤講師(日本近世史)はn江戸しぐさのようなとんでもない話が一般に受け入れられることはないと油断していた」と反省する江戸しぐさは、「歴史修正主義」「伝統賛美」の風潮とも軌を一にする
「日本の歴史や伝統を過剰に賛美する書籍やテレビ番組が氾濫するなど、自国の伝統を褒められたいと願う欲望が渦巻いている。文科省が歴史的な事実をろくに調べずに道徳教材で江戸しぐさの記述を許した背景には、日本の伝統のように見えれば何でも良いという軽率な考えあったのではないか」斎藤貴男



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