原子力研究の人材育成について

湯浅誠
今日は、「原子力研究の人材育成について」っていうテーマなんですけど。今年3月、小出さんは京都大学原子炉実験所を定年退職、退官されました。お疲れ様でございました。
小出さん
はい。
湯浅:
41年間ですか?
小出さん
そうです。
湯浅:
原発の危険を訴え続けてこられたということなんですけど、小出さんが大学から退かれるということで、今後の研究者、小出さんみたいな研究者って言うかな? あるいは、廃炉もいろいろ進みますんでね、そういう人材とか、もちろん福島原発の処理もありますが、そういうもろもろ担う原子力人材、原子力研究の人材っていうのが気になるところなんですけど。その現状と未来について、小出さんのご意見を伺いたいですが。
小出さん
はい(笑)。とってもなんか難しい問いで、私が答えるべき筋合いではないと思いますが。
湯浅:
まあまあ、贈る言葉みたいな感じで。
小出さん
はい。いくつか、ではお答えします。
湯浅:
お願いします。
小出さん
もともと日本での原子力というのは、化石燃料が無くなってしまうから未来のエネルギー源だと言われたわけですし、原子力ができれば、電気代の値段が付けられないぐらい安く発電できるというように、私は聞かされましたし、原子力発電所に関しては決して事故を起こさないんだというようなことも聞かされて、今日まで来たわけです。
そのために大学という所でも沢山の学生を集めて、原子力を進めようと教育をしてきたわけですが、今となってしまえば、全てが間違っていたということがハッキリしています。原子力の燃料であるウランは化石燃料に比べれば、はるかに貧弱な資源でしかありませんでしたし、原子力発電所というのは巨大な事故を起こすということが、もう福島第一原子力発電所の事故で示されてしまいましたし、原子力発電の発電単価が事故と無関係でもなおかつ、火力や水力に比べて高かった。
事故の補償費用を考えれば、もうとてつもなく高い。さらには生み出した放射性廃物の始末、今後100万年かかるわけですけれども、そのお金を考えればもう途方もないくらい高いということが分かってしまっているわけです。もういい加減にもう目を覚まさなければいけないと思いますし、今後も原子力を進めようとするような人材は一切不要だと私は思いますし、大学での研究もやらない方がいいと思います。
湯浅:
そうなんだ…
小出さん
はい。ただしですけれども、残念ながら私達が原子力に夢を託してこれまでやってきてしまったがために、膨大な放射性物質を既に生み出してしまいました。残念ながら、それを無毒化するという力が現在の科学にはありません。なんとか環境に漏れないように監視を続けるということしかできないわけですし、そのための専門家というものはどうしても必要だと思います。
ただし私自身は原子力にまだ夢があった時代に、その夢のために自分の人生をかけようとしたわけですけれども、これからの人達は、私達の世代が生み出したゴミの始末をとにかくやれということ、そういうことにほんとに夢がかけられるのだろうかと思うと、私自身は不安があります。
でも必ず必要な仕事ですので、そういう学問の分野は残してほしいと思いますし、若い人にもそういう所で働いてほいしいと、希望はしています。
湯浅:
廃炉含めてやる後始末をする人がどうしても必要だというふうなことであれば、どういう人、どういう知識、知見を持った人を育てていけばいいんですかね?
小出さん
もともと私が原子力に夢を託した時代というのは、昔の大日本帝国時代に日本には7つの帝国大学がありました。北から北海道、東北、東京、名古屋、京都、大阪、九州ですけれども、その7つの帝国大、元の帝国大学の全てに原子力工学科、あるいは原子核工学科というのがあって、がんがん原子力を進めようとしたのですが、時代がどんどん移ってきまして、原子力にかけた夢が次々と敗れていく中で、7つの帝国大学から既に原子力工学科も原子核工学科もひとつもないのです。ですから、もう原子力に関する学問自身が崩壊してしまっているのですけれども。
湯浅:
そうなんですか?

小出さん
はい。今、聞いて頂いた通り、その愚かな夢をかけたがために生み出してしまった放射能のゴミが大量に残っていますので、それをなんとか始末をつけるという仕事は残っています。始末のつけ方としては、放射能そのものを消すという方法がひとつです。ただ、その事は大変難しくて、70年以上研究を続けてきたのですけれども、未だに実現できないという困難な研究です。

でも、それもやはり続けるべきだと私は思います。もうひとつは消すことができないなら、なんとか閉じ込めるという方向の研究で、今現在、世界は消すことができないからどこかに閉じ込めよう、大半は地下に埋め捨てにしようということになってるわけですけれども、本当にそういう方法が安全かどうかということをきちっと考える学問は、やはりつくらなければいけないと思います。
湯浅:
なるほどね。今後ですね、おっしゃられたようなことをやってく人がどうしても好むと好まざるとに関わらず必要だということになると、何らかの、それが大学なのか研究所なのか、そうした研究を進める場所は必要なんだと思いますが、どこにあるのが一番いいんですかね?
小出さん
まあ、非常にファンダメンタルなことからやらなければいけないわけですから、もちろん企業が金儲けのためにそういう研究をするとかいうことは実情はないと思いますので、やはり大学というような所でやるしかないと思います。
湯浅:
どこかいろいろその分野にお詳しいと思うんですけど、この大学、この研究機関でやってる人達は可能性を感じるというか、面白いんじゃないかという所はありませんか?
小出さん
残念ながらありません。
湯浅:
えぇ、ないんだ…
小出さん
これまでの原子力という世界はですね、いわゆる巨大なその国、国策の下で全てが動いてきたわけで、大学という所も原子力を進めるという国策に協力してやってきたのです。ですから、ほとんどの学者もみんな原子力の旗の下に集まって原子力を推進してきた人達なのです。私は、もうそういう世界から足を洗わなければいけないと、先ほどから聞いて頂いてるわけですし、これまで原子力を担ってきた人達は、綺麗さっぱり皆さん引退すべきだというぐらいに思っています。
湯浅:
なるほど。一からやり直さないと難しいということですね?
小出さん
と思います。
湯浅:
はい。どうもありがとうございました。
小出さん
はい。ありがとうございました。