【転載】権海孝インタビュー「朝鮮学校は日本の右翼には目に刺さったトゲ」

http://www.sisapress.com/journal/article/170463  <時事ジャーナル>2017.7.22の記事

権海孝「私たちの民族を教える朝鮮学校、日本の右翼には目に刺さったトゲのような存在」

[インタビュー] 朝鮮学校の支援団体「モンダンヨンピル」の権海孝代表…「私たちの社会が朝鮮学校を記憶してほしい」

 日帝強占期に数多くの同胞が日本に連れて行かれた。1945年に解放されてもすぐには故国に戻れなかった。代わりに在日同胞は、母国語と文字を知らない子どもたちのために学校を建てた。日本全国に500を超える「国語講習所」が設置され、これは1946年に「朝鮮学校」へと発展した。以後、朝鮮学校は、およそ70年間、日本の地で朝鮮民族の歴史を教えてきた。

 「目に刺さったトゲでしょう。」
 朝鮮学校を支援している国内の非営利団体「モンダンヨンピル」の権海孝<クォン・ヘヒョ>代表は、朝鮮学校が受けてきた抑圧についてこのように表現した。日本社会で朝鮮学校は、右翼の政治勢力と団体の攻撃の対象だ。2002年に日本の右翼団体は、朝鮮学校の女子生徒が制服として着ているチマ・チョゴリをカミソリで切るなどのテロを加えた。いくつかの団体は校庭の前でヘイトスピーチをするなどのヘイト行為を続けた。
 さらに安倍政権は、執権後、日本国内のすべての高校生が授業料を支援される「高校無償化法」から朝鮮高級学校(韓国の高校に該当)だけを除外するに至った。露骨な差別だった。すると2013年、九州・東京・大阪・愛知・広島にある朝鮮高級学校の生徒たちが、各々日本政府を相手に訴訟を起こした。
 これに対する初の1審判決が、去る7月19日に広島であった。日本の裁判部は、広島朝鮮学校の請求を棄却した。広島朝鮮学校は、直ちに控訴の意思を表明した。1審の判決は来る7月28日に大阪、9月13日に東京でも出される予定だ。
 朝鮮学校と今回の訴訟について調べるために、モンダンヨンピルが運営するカフェ「ヨンピル1/3」で権代表と会った。俳優としても活発に活動している彼は、ホン・サンス監督の映画「その後」で主役を務めてもいる。権代表は、訴訟に関して「敗訴はしたが希望を失わない」と語った。
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朝鮮学校支援団体「モンダンヨンピル」の権海孝代表

いつから朝鮮学校に関心を持つようになったのか。

 2002年の6・15南北共同宣言実践のための南北海外青年共同行事に、南側の青年代表団として参加した。その時、北側の代表団として参加した朝鮮学校出身の青年たちと会った。実に独特のアイデンティティだった。日本語も朝鮮語もできる。しかも日本の地で生まれ育って北朝鮮を祖国だと言い、慶尚道全羅道も故郷だと言う。多様なアイデンティティが混在した彼らの姿に引きつけられた。

モンダンヨンピルを結成したのもそういう関心の延長だったのか。

 朝鮮学校に対する関心を持っていた2011年に東日本大震災が起き、多くの朝鮮学校も被害を被った。そこで他の文化芸術人らと朝鮮学校のための募金をしようと、モンダンヨンピルを立ち上げた。当時は1年だけやって解散しようと思っていた。しかし、その後も朝鮮学校と連帯する国内の団体が必要だという同胞社会などの要求で、
モンダンヨンピルを続けることになった。

現在、日本に朝鮮学校はどのくらいあるのか。

 朝鮮初・中・高級学校を合わせて全部で60数校(2016年5月現在66校)が日本全国にある。過去には160数校あった時期もあったが、朝鮮学校に対する制度的な支援が非常に貧弱なため、だんだんと減ってきている。

財政が非常に劣悪なのか。

 朝鮮学校は日本で正規の学校である「1条校」(訳者注:学校教育法第1条に規定される学校。この「一条校」だけが小学校、中学校、高等学校という名称を使用できる)ではない「各種学校」に分類されている。このため、日本政府から財政支援を受けられない。一部の自治体で当該地域の朝鮮学校補助金を支給している程度だ。そのため財政状況は常に良くない。ただ、正規の学校ではない代わりに、日本政府の教育指針から自由である。それが、日本の地で日本軍「慰安婦」と独島問題などの韓日間の敏感な歴史について教えることができる理由だ。

朝鮮学校北朝鮮の支援を受けているという理由で否定的に見る視線もある。

 歴史的脈絡をよく知るべきだ。在日同胞は1950年代でも日本社会の最下層民だった。彼らが学校を建てたのだから環境が劣悪だったのは当然だった。そんな中、北朝鮮が莫大な財政援助を提案した。当時、韓国の支援はなかった。朝鮮学校は生き残るために北朝鮮の援助を選んだだけだ。

北朝鮮の思想教育を受けているということも否定的な視線の原因だ。

 北朝鮮の支援を受けることで北朝鮮の思想教育もされるようになった。この事実を知ってぎょっとする人もいるだろう。だが、基本的に朝鮮学校は、北朝鮮の理念ではなく、私たち民族について教えるために建てられた所だ。学生たちも、民族について学びたくても周囲に適当な学校がないから朝鮮学校に来る。また、朝鮮学校の学生は、世界で2~3位の資本主義国家である日本に住んでいる。彼らは日本のTV番組を見て日本の商店に行く。単に学校でちょっとの間、北朝鮮の理念について学ぶだけだ。彼らが表面的に私たちと違うからと言ってすぐに排除せずに、彼らの状況の内面に何が潜んでいるのかを考えてほしい。

日本政府が高校無償化法から朝鮮学校だけを排除した理由は何だと考えるか。

 日本の右翼政治勢力にとって朝鮮学校は、日本の恥ずべき戦争犯罪の歴史を毎日のように確認させる存在だ。朝鮮学校が「慰安婦」、独島、日帝強占期について、それも母国語で教えているからだ。また、朝鮮学校は、在日同胞が教育を通じて結集する窓口の役割をしている。目に刺さったトゲのようではないか。こんな朝鮮学校が生存するように支援したくないのだ。

確実に右翼政権である安倍総理の執権後、高校無償化法からの除外も急速度でさなされた。

 安倍政権は、日本社会の方向を過去の軍国主義時代に戻すことを最も重要視している。このためには「私たちの社会が危険だ」というシグナルを国民に送り続けなければならないが、その過程で朝鮮学校スケープゴートにしている。朝鮮学校は「北朝鮮に追従する学校」だと烙印を押し、「日本社会に北朝鮮に追従する集団がある」「北朝鮮に追従する集団を支援することはできない」と言って、日本社会の中に恐怖と緊張を誘導しているのだ。

安倍政権が高校無償化から朝鮮学校を除外すると、朝鮮学校の生徒が直接原告になって日本政府を提訴した。相当な勇気が必要だったはずだが。

 朝鮮学校の学生たちは、去る70年間、各種の社会的・制度的差別を受けながらも、「あなたたちがいくら差別しても私たちは負けない」という精神で持ちこたえてきた。今も同じだ。日本政府が加える抑圧に対して、隠れずに直接立ち向かっていきたいのだ。

同じ民族のことなのに、韓国には朝鮮学校や今回の訴訟についての情報が少ない。

 韓国でも少なくない団体が朝鮮学校を支援している。ただ、マスコミが海外同胞のニュースと彼らの状況について十分に伝えていない。だから、在日同胞だけではなく中央アジア地域にいる高麗人などの同胞についての情報を知ることが難しい。残念だ。

7月19日にあった広島の朝鮮学校と日本政府の間の訴訟の1審判決で、朝鮮学校側が敗訴した。今回の判決をどう考えるか。

 現在の日本社会の方向性について知ることができる判決だと思う。日本社会が、自分たちの歴史的過ちが作り出したマイノリティにどのように対応ているのかが把握できる。日本社会が今回の訴訟の結果について恥ずかしいと思ってほしい。

朝鮮学校をよく知らない人たちに言いたいことがあれば。

 日本政府が朝鮮学校を「お前らは取るに足らない」と言って抑圧する時、いちばん力になるのは、「あなたたちには価値がある」という応援だ。私たちの社会が在日同胞社会と朝鮮学校に関心を持って、彼らを記憶することを願っている。

日本政府に立ち向かう朝鮮学校の学生たち
 
 2010年4月、日本で「公立高校の授業料の不徴収および高等学校などの修学支援金の支給に関する法律」(高校無償化法)が施行された。外国人学校を含むすべての高校の授業料を無償にする措置だった。ただ、10校の朝鮮高級学校は例外だった。
 表面的には、朝鮮学校が日本の一般の高校に準ずる水準の教育をしているのかが確認できないという理由だった。しかし、実際には、外交的理由による結果だった。北朝鮮の日本人拉致問題がいまだ解決されていない状況で、日本の世論は、朝鮮学校を支援してはならないという方向にあった。朝鮮学校親北朝鮮系だと知られている「在日本朝鮮人総連合会」(朝鮮総連)傘下にあるためだった。
 金明俊<キム・ミョンジュン>「モンダンヨンピル」事務局長は、「文部科学省朝鮮学校を高校無償化の支援から除外することを要請した人物は、中井洽拉致問題担当相だった」と語った。このような要請があった後、日本政府は、朝鮮学校が支援対象にふさわしいかを審査すると発表した。金事務局長は、「教育について政治的判断が介入した」と指摘した。
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モンダンヨンピルなどの市民団体は、毎週金曜日、駐韓日本大使館前に集まって、朝鮮学校を高校無償化から排除した日本政府を糾弾する集会を開いている。

 審査は長続きしなかった。2010年11月、延坪島砲撃事件が勃発し、日本国内の反北感情が再び高潮した。これをきっかけに、当時の菅直人総理は、文部科学省に、朝鮮学校に対する高校無償化法の適用審査手続きを中断するよう指示した。以後、審査は無期限延期された。
 審査が中断した状態で(訳者注:これは事実誤認であって、菅直人首相は退陣直前の2011年8月に審査の再開を指示し、同年11月には文科省の審査が終了している。後は省令に基づいて朝鮮学校を無償化の対象に加える手続きだけだったが、菅直人の後に首相になった野田佳彦がこれを実行しないまま民主党政権が崩壊した)、2012年12月、自民党衆議院選挙で圧勝した。自民党の安倍政権は、高校無償化に関する文部科学省の省令(韓国の施行令に該当)を修正して、朝鮮学校を高校無償化の審査対象からも完全に除外した。安倍内閣が成立してから4日後のことだった(訳者注:省令を改悪したのは2013年2月。安倍首相が朝鮮学校に無償化を適用しないという方針を表明したのが政権成立直後のこと)。
 最も怒ったのは、朝鮮学校の学生・卒業生だった。彼らは、直接原告になって訴訟団を結成した。2013年1月の大阪を皮切りに、愛知、九州、広島、福岡朝鮮学校など計5校の学生約250人が、それぞれ日本政府に損害賠償を要求する訴訟を起こした。訴訟は4年間続き、7月19日、訴訟を提起した朝鮮学校のうち初めて広島朝鮮学校に対する1審判決が出た。
 広島地方裁判所は、朝鮮学校の請求をすべて棄却した。裁判部は、朝鮮学校朝鮮総連と関係があるという点、高校無償化支援金を政治的目的ではなく学生のために使うかどうか疑わしいという点を理由に、日本政府の決定が適法だと判断した。判決文が読まれるおよそ15分間、子どもたちの学習権あるいは教育権に対する話はなかった。
 広島朝鮮学校の弁護人団は、直ちに控訴する計画だ。19日に判決が出るや否や、弁護人団はすぐに声明書を出し、控訴の意思を強くにじませた。声明書で弁護人団は、「高校無償化法から朝鮮学校を除外した日本の行政部の恣意性を正すべき司法部が、無批判に行政部の判断に追随した。これは、マイノリティの人権保障を任務とする司法部の役割を放棄したも同然である。弁護人団は、今日、裁判部が下した判決をとうてい受け入れることはできない」と表明した。
 朝鮮学校は、7月28日に大阪、9月13日に東京でも判決を控えている。すでに敗訴し、また敗訴すれば、朝鮮学校の至難の闘いはより一層苦しくなるだろう。しかし、それでも彼らは笑っていた。広島の判決後、広島朝鮮学校の学生と学父母たちはこう語った。「笑うしかないです。最後の抵抗は笑いですから。」彼らはもう一度頑張らなければならない、闘わなければならないという言葉を、そうやって笑いで代えた。