尋常ならざる我が国の言論状況――【シリーズ植村隆の闘い 第1回】

尋常ならざる我が国の言論状況――【シリーズ植村隆の闘い 第1回】

国連までもが注目した植村氏へのハラスメント


 ケーン氏はこのニュースリリースの中で、植村さん事件を「植村氏に対するハラスメント事件」と断言する。確かにこれはケーン氏の言う通りだ。ここ数年、植村氏や氏の家族の受難は、ハラスメント以外の何物でもない。しかもケーン氏はこの事件を言及するのにほぼ一章分の分量を費やしている。 

“The university to which he moved faced pressures to remove him, and outside individuals threatened him and even his daughter with violence, including sexual violence and death. ”

 この一文で出てくる” The university”とはいうまでもなく、植村氏が教壇に立っていた北星大学のこと。北星大学脅迫事件はこうして、国連人権高等弁務官事務所までもが注目する大事件となった。 

 植村氏は当然のことながら、ケーン氏が「ハラスメント」と表現する数々の受難に対して黙っているわけではない。しっかりと法的な対応を取っている。その一つである櫻井よしこ氏に対する名誉毀損訴訟の第一回口頭弁論が、4月22日、札幌地裁で開かれた。 

植村氏への憎悪を扇動したあるコラム


 法廷で植村氏が読み上げた意見陳述書の内容は、あまりにも凄惨で、氏と氏の家族がいかに非道な目にあわされてきたのかを物語る。 

 その中から少し引用しよう(全文はこちら http://sasaerukai.blogspot.jp/2016/04/blog-post_60.html) 

“脅迫状はこういう書き出しでした。 
「貴殿らは、我々の度重なる警告にも関わらず、国賊である植村隆の雇用継続を決定した。この決定は、国賊である植村隆による悪辣な捏造行為を肯定するだけでなく、南朝鮮をはじめとする反日勢力の走狗と成り果てたことを意味するものである」 
5枚に及ぶ脅迫状は、次の言葉で終わっています。 
「『国賊植村隆の娘である○○○を必ず殺す。期限は設けない。何年かかっても殺す。何処へ逃げても殺す。地の果てまで追い詰めて殺す。絶対にコロス」” 

“娘への攻撃は脅迫だけではありません。2014年8月には、インターネットに顔写真と名前が晒されました。そして、「こいつの父親のせいでどれだけの日本人が苦労したことか。自殺するまで追い込むしかない」と書かれました。こうした書き込みを削除するため、札幌の弁護士たちが、娘の話を聞いてくれました。私には愚痴をこぼさず、明るく振舞っていた娘が、弁護士の前でぽろぽろ涙をこぼすのを見て、私は胸が張り裂ける思いでした。”

 意見陳述の時間は限られている。ここで植村氏があげた脅迫状の事例は氷山の一角に過ぎない。このほかにも、脅迫状は多数送られてきており、北星大学に入電した脅迫電話に至ってはその数倍に上るだろう。もはや尋常の沙汰ではない。 

 この差別的意図を含んだ憎悪を煽ったのは、櫻井よしこ氏に他ならない。 

 植村氏の意見陳述書にはこうある。 

“私は、神戸松蔭女子学院大学に教授として一度は採用されました。その大学気付で、私宛に手紙が来ました。「産経ニュース」電子版に掲載された櫻井さんの、そのコラムがプリントされたうえ、手書きで、こう書き込んでいました。 

「良心に従って説明して下さい。日本人を貶めた大罪をゆるせません」 

 手紙は匿名でしたので、誰が送ってきたかわかりません。しかし、内容から見て、櫻井さんのコラムにあおられたものだと思われます。”

 かくの如き脅迫状で教授採用の人事事案を左右する神戸松蔭女子学院大学の定見のなさは別途非難しよう。しかし、まずは「このような前近代的ともいうべき尋常ならざる事態が出来しているのが現在の日本である」という事実を直視したい。そしてその事実こそが、ケーン氏をして「日本の報道の自由を巡る懸念はより深まった」と言わしめるものであり、「国境なき記者団」をして「報道の自由ランキング」における日本の地位を下げさせるものに他ならない。