日本人はなぜ「論理思考が壊滅的に苦手」なのか

日本人はなぜ「論理思考が壊滅的に苦手」なのか

出口治明×デービッド・アトキンソン」対談


いちばんの原因は、日本人が「分析をしない」ことにあると思います。たしかに高度経済成長期、日本のGDPは世界の9%弱まで飛躍的に伸びました。それは事実です。しかしそのとき、「日本ってスゴイ!」と喜ぶだけで、何が成長の要因だったかキチンと検証しませんでした。さらには「日本人は手先が器用だから」とか、「勤勉に働くから」とか、「技術力がある」からなど、直接関係のないことを成長要因としてこじつけてしまい、真実が見えなくなってしまったのです。

こういう当たり前の分析を行わずに「日本人は器用だから」「協調性があるから」「チームワークがあるから」成長したと思い込んで、根拠なき精神論のままこれからもやって行こうとしても、世界の新しい変化に対応できるはずがありません。驚くことに、いまだに「欧米の強欲な資本主義とは違い、日本の経営はすばらしい、三方よしだ」などと言う評論家や学者がいるのも事実です。僕は彼らにいつも、次のように質問しています。「日本の経営がすばらしいのなら、なぜアメリカ、ヨーロッパ、日本という3つの先進地域の中で、日本の成長率がいちばん低いのか」「なぜ日本人は年間2000時間も働いているのに、1%しか成長しないのか」「なぜヨーロッパは1500時間以下の短い労働時間で2%成長しているのか」まともな答えが返ってきたことは一度もありません。

1990年代以降の生産性向上要因を分析すると、人的要素も物的要素もほかのG7諸国とほとんど変わりません。しかし、マネジメントが最も関係する生産性向上要因(全要素生産性)は、諸外国ではものすごく伸びているのに、日本ではほとんど伸びていません。つまり、日本に決定的に不足しているのはマネジメントだということは、はっきりとエビデンスとして出ているのです。やはり、日本の経営者は才能がない。失われた30年の根本原因はマネジメントが悪いから、それに尽きます。こういう話をすると「衝撃的です」と言われてしまう。なぜこれが「衝撃的」なのか。私は政府関係者と話をする機会が多いのですが、日本経済を議論するときにテーブルに座っているのは、日本という国家のマネジメントをやっている国会議員と、企業のマネジメントをやっている経団連経済同友会、または商工会議所の人たち。つまりは日本のマネジメントを中枢でやっている人たちです。日本経済の問題点について彼らと議論をしても、マネジメントに問題があるというものすごい単純なことは、なかなか理解してもらえません。なぜなら、彼らにとっては自分たちが悪いと認めることになるからです。



Googleの人事部は社員の管理データのうち、国籍・年齢・性別・顔写真、これらすべてを消してしまったそうです。そんなものは必要ないからと。人事を決めるのに必要なのは、今やっている仕事と過去のキャリアと将来の希望だけ。男か女か、歳はいくつだとかは一切関係ないというのが彼らの考え方で、こちらのほうがはるかに人間的です。世界の優れた企業は社員をとても大事にしている、だからこそいいアイデアがどんどん出てくるという好例だと思います。日本の会社は社員を大事にしていると思っている経営者が少なくありませんが、それは本当でしょうか。きちんとデータで確認した人はいるのでしょうか。僕には単なる思い込みであるとしか考えられません。

たとえ最先端技術があっても、誰も使わないならないのと同じです。「普及」こそが問題なのです。AIさえあればうまくいくというのは、念仏さえ唱えていれば極楽浄土に行けるという話と変わりません。しかも、それに気がつく人すら誰もいない。で、私が自分の意見をぶつけてみると、何か「宇宙人が来た」みたいな反応されました。その会合の後で「さすが外人さんは見る目が違いますね」といったことを言われたのですが、外人だから考え方が違うのではありません。手前味噌ですが、「脳みそを使っている人」と「使っていない人」の違いなのではないかと最近よく思います


アトキンソンさんに倣って「日本人はなぜ勉強しないのか」をデータで分析したのですが、答えは割と簡単でした。まず、第1に大学進学率が低いのです。確か52%ぐらい。日本は大学に行かない国です。OECDの平均が6割を超えていますからね。さらに大学の4年間でほとんど勉強しません。これは企業の採用基準が悪い。採用のときに大学の成績や読んだ本のことは一切聞かずに、ボランティアの経験を話してごらんなどと言っているわけです。だから、エントリーシートに書くためにボランティアをやるというような、本末転倒な状況が生まれてくるのです。さらに大学院生は使いにくいなどと言って企業が採用しないから、大学院に行く人が少ない。日本の大学院生の比率は先進国の中で最低レベルです。アトキンソン:大学で何を学ぶのかについても、誤解している日本人が少なくありません。以前、ある大学の方から「ロジカルシンキングの授業をつくりたい」と相談されたことがあります。あぜんとしました。これまで何を教えていたのでしょうか。大学で学ぶべきことなど、「ロジカルシンキング」以外にはありません。サイエンス、経済、法律、文学などは、もちろんそれ自体大切ではあるものの、基本的にはロジカルシンキングを学ぶための「材料」です。材料が現実の仕事に生かせるとは限りませんが、ロジカルシンキングは必ず、その後の人生に生きてきます。

アメリカの経営学の学会では、マネジメントが完全にサイエンスになっています。なぜそうなったのかというと、そもそも人間の頭をそのままにしておく、すなわち草原の本能のままでは、ろくなモノができないからです。だから大学が必要で、経営者教育も必要で、株主がいて助言させる。社長の勝手な思い込みで好き勝手にさせないようになっているのです。たった1人の頭の中で、データもエビデンスロジカルシンキングもなく精神論だけでやるどうなるか。歴史を振り返ると、大当たりする可能性もゼロではありませんが……。
出口:でも、確率的に言ったらたいてい失敗しますよね
アトキンソン:そうです。たいてい失敗します。