日本の場合、富裕層ほど所得税率は低くなっていくという真実


日本の場合、富裕層ほど所得税率は低くなっていくという真実

’18年に財務省が示した給与所得者のモデル試算(夫婦子2人で片働き)によると、年収3,000万円(所得税率と住民税率の合計が50%)の場合でも、さまざまな控除があるために、実質的な税率は32.6%となる。主要国との比較では、日本の税負担は中程度で、フランス(年収3,000万円で29.7%)やアメリカ(同22.2%)よりも高いが、イギリス(同37.9%)やドイツ(同33.6%)よりも低い水準にあるという。一見、日本の富裕層もそれなりの税金を払っているように見えるが……。
じつは日本の場合、富裕層になればなるほど、所得にかかる税率は低くなっていくのだ。
所得のうちで株式の売却益や配当金などが占める割合は、富裕層ほど高い。財務省の資料によると、平成25年(2013年度)の申告納税者のうち、年間所得が5千万~1億円の人の場合、株の売却益や配当金などが所得で占める割合は10.7%。これが5~10億円の人だと61.3%、100億円以上の人だと93.7%にもなる。じつは株の売却益や配当にかかる税金は、給与所得や事業所得などの所得税とは別に計算することになっていて、2013年の時点では税率は“金額に関係なく一律”10%(所得税7%+住民税3%)に過ぎなかった。そのため、5千万~1億円の人の所得税の負担率27.5%をピークに、5~10億円の人だと19.1%、100億円以上だと11.1%と、所得が多くなるほど負担している税率が低くなっていくのだ。
2014年から、株の売却益や配当にかかる税率は20%(所得税15%+住民税5%)に引き上げられたが、近年の統計でも、所得税の負担割合は5千万~1億円の人で28.2%、5~10億円の人だと23.35%、100億円以上だと16.85%と、やはり所得が多くなるにつれて低くなっている(いずれも国税庁「平成29年分 申告所得税標本調査」より)。
これは所得税のみ税率なので、ここに5%の住民税が加わるのだが、それでも給与などの所得税最高税率45%には遠く及ばない。仮に、所得100億円以上の超富裕層の税負担率が住民税を加えて20%ほどだったとしても、これは年収1,500万~2,000万円のサラリーマンと同じ程度の税負担率に過ぎない。
じつは多くの国では、株の配当金や売却益にかかる税率は、日本のように一律ではなく、利益に対する累進性で、税率も高いことが多い。
また、給与所得と株式による所得を分離せずに、所得税を一律で計算している国もある。
日本は非常に富裕層に優しい税制になっているといえる。
仮に、株式などの金融所得に対する税率を25%に5%引き上げるだけで、約1兆円の税収増が見込めるという。
「高額所得者の税率を上げると、富裕層が海外に逃げ出してしまう」そういう反論も多いが、実際に富裕層が実行に移す可能性は低いとみられる。
たとえ、海外に居住していたとしても、日本株の配当金や日本の不動産収入など、“日本で稼いだ金”には日本の税制が適用される。日本の税金がかからないのは、海外居住者が“海外で”稼いだお金だ。日本の富裕層の多くは、日本国内で所得を得ており、海外に居を移すメリットは少ない。
また高所得者に多い医師や弁護士などは、海外では資格を使えないため、所得を得る手段を失ってしまうこともある。
語学や生活環境の違い……。“海外で稼ぐ力”を持たなければ、相続税対策を除いて、海外に移住するメリットは高くないのが実情だ。