高校野球の選手が夏練で頭が茹だってしまい、精神錯乱の状態で大学病院に担ぎこまれたのを見たことがある。酷暑は、熱中症だけでなく、こんなことも起こすのだ。

高校野球の選手が夏練で頭が茹だってしまい、精神錯乱の状態で大学病院に担ぎこまれたのを見たことがある。酷暑は、熱中症だけでなく、こんなことも起こすのだ。
コーチだか監督だかが「早よう治してくれ!こいつがおらんと試合に勝てんのじゃ!」と騒いだが、医師が「一ヶ月以上の静養が要る
ので、野球は諦めてくれ」というと、選手の親が
「死んでもアホになってもいいから、明後日の試合にだけは出せるようにして欲しい。本人もそれを望んでおりますのじゃ」と涙を流すのだ。
すると医師も、そういう日本人的センチメンタリズムに弱い人だったのか、涙を流し始めて「う、うううう、お父さんの気持ち、ようわかりましただ!きっと明後日の試合に出られるよう、努力いたします〜」
それで、本人が錯乱して「グワ〜グワ〜!」と唸り、拘束されて白目を剥いているのに、医師、監督、親、看護婦らが抱き合いながら感涙している、という構図に私は戦慄したね。選手は錯乱状態で、歯を食いしばったことで、大臼歯数本を噛み砕いてしまい、顎骨にもヒビがあり、その治療だけでも明後日に間に合うはずがなく、精神状態も安定しそうにない。我々歯科が
「無理無理」
というと、医師は「努力、根性、優しさ」などと言い、野球に賭ける青春の美しさが君らにはわからんのか!と、また泣く。

で、結局、選手はその後、さらに容態が悪化して、精神科に入院してしまうんだけど、ベッドの枕元に、バット3本にボールが乗った置物(?)が置かれていて、そのボールに「祈る回復!ファイトファイト」とチームメイトの拙い文字を見た時は、私も泣きたくなった。