幼稚園の教育勅語暗唱は戦前でも異様だった
[1]幼稚園の教育勅語暗唱は戦前でも異様だった
愛国幼稚園報道のインパクト
「あんた見た? あの幼稚園のテレビ」
「見た見た。あれは子どもがかわいそうだわよ」
「ホント昔みたいでヤだねえ」
「あんなのやらせるのは、大人の自己満足よ」
「なんで昭恵さんはあんなのに名前貸しただろうねー」
「見た見た。あれは子どもがかわいそうだわよ」
「ホント昔みたいでヤだねえ」
「あんなのやらせるのは、大人の自己満足よ」
「なんで昭恵さんはあんなのに名前貸しただろうねー」
森友学園事件の報道が始まって2週間ほどたった2017年3月はじめ、テレビのワイドショーでは何度も「教育勅語」を唱和し、軍歌を歌い、「安倍首相ガンバレ」を宣誓する塚本幼稚園の動画が流された。偶然乗ったバスに座っていた老婦人二人が上のような会話をしていて驚いた。
その週のうちに、タクシーの運転手さんや、理髪店の大将、病院の待合室の高齢者、居酒屋の隣のテーブルにいた背広サラリーマン御一行、サウナのおじさん――などなどのおしゃべりに塚本幼稚園の話題が出てきたのを目の当たりにした。これまで現政権下の「復古調」にはなんの興味もなかったような人びとが、世間話レベルで違和感を表明している。
世論はつくられるのだなあ……という感をあらたにしたが、統制された子どもたちの異様な動画のインパクトも大きく作用して「なんか最近おかしくないか?」という率直な不安感もまた醸成されていると感じる。
とりわけ「安倍晋三記念小学校」というネーミングや、現職首相夫人が名誉校長をつとめていたことが報じられるにいたって、政権中枢そのものがおそろしい劣化・退化をきたしているのではないかと予感した人も少なくないだろう。
そもそも安倍晋三首相からして、「いわば私の考え方に非常に共鳴している方でですね」「妻から森友学園の先生の教育に対する熱意は素晴らしいという話を聞いている」と国会答弁で述べていたにも関わらず、数日後には「非常にしつこい」「教育者としてはいかがなものか」と、見事な手のひら返しを見せてくれた。
この無情な急転向をお手本にしてか、かつてこの幼稚園に講師として招かれた百田尚樹、曽野綾子、平沼赳夫、青山繁晴、竹田恒泰、渡部昇一、櫻井よしこ、中山成彬といった人びとが「推薦人に名前を勝手に使われた」(竹田恒泰)と見苦しい言いわけをくりだしたり、森本学園については公式にはいっさい言及しない(櫻井よしこ)などの沈黙を決めこんでいる。
敗戦前までの「教育勅語」暗唱
塚本幼稚園の園児たちが声を揃えて「教育勅語」を暗唱するさまに、多くの人が違和感を覚え、あたかもそこだけが〈戦前〉であるかのような感を抱いたことだろう。しかし、幼稚園児が声を張り上げ唱える姿は、敗戦前までの一般的な勅語暗唱・勅語奉読のスタイルからしても異様なものだった。 ・・・続きを読む
[2]疑似「戦前」を演出する「教育勅語」崇拝
*3月24日(金)10:00配信時点の記事タイトルは「[2]『教育勅語』崇拝をマネした戦前のフェイク」でしたが、変更しました。ご了承ください(3月24日20:30、編集部注)。
学校における「教育勅語」神格化
昭和17年当時の国民学校における儀礼のうち、何よりも重大なのは四大節(元日の四方拝、紀元節、天長節、および明治節)、教育勅語奉読式(10月30日)、次いで入学式、始業式、卒業式などであった。とりわけ四大節は、天皇・皇后の御真影を「奉掲」し教育勅語を「奉読」するという特別なオプションがついており、「天皇陛下の御盛徳を仰ぎ奉り、皇室の御繁栄を祈り奉る」儀式として全学校で執り行うように文部省から強く命じられたものでもあった。
だからこそ、当時の校長先生たちは緊張したのだろう。仮にも「不敬」があってはならぬと、微に入り細を穿(うが)つマニュアルが必要だった。それが川島のこの本だ。
例えば毎年10月30日に行われていた「教育勅語奉読式」は次のような式次第になっていた。
職員児童式場に入る。
次に学校長式場に入る。
次に一同敬礼。
次に国歌をうたふ。
次に学校長勅語を奉読する。
次に勅語奉答の歌を歌ふ。
次に学校長訓話を行ふ。
次に一同敬礼。
次に学校長退出。
次に職員児童退出。
次に学校長式場に入る。
次に一同敬礼。
次に国歌をうたふ。
次に学校長勅語を奉読する。
次に勅語奉答の歌を歌ふ。
次に学校長訓話を行ふ。
次に一同敬礼。
次に学校長退出。
次に職員児童退出。
川島は「教育勅語」全文にふりがなをふり、語句の区切りをスペースであらわし、さらにアクセントの位置までつけるという、たいへん親切なお手本を示している。
爾臣民 なんじ しんみん
父母ニ孝ニ ふぼ に こー に
兄弟ニ友ニ けいてい に ゆー に
夫婦相和シ ふーふ あい わし
朋友相信シ ほーゆー あい しんじ
……
父母ニ孝ニ ふぼ に こー に
兄弟ニ友ニ けいてい に ゆー に
夫婦相和シ ふーふ あい わし
朋友相信シ ほーゆー あい しんじ
……