共謀罪政府委員の経験も長い元大阪高検検事長の東条伸一郎氏(明治学院大学教授)の注目すべき発言

共謀罪
著名な元検事長政府委員の経験も長い元大阪高検検事長の東条伸一郎氏(明治学院大学教授)の注目すべき発言による実務家の立場からの批判的な意見
実務家の感覚としては、今回の経緯から見て、いずれば『共謀罪』という形で入ってくるのは間違いないと思われるが、本音では、賛成していない。法執行機関が相手にしているものは、ほとんどの場合、結果(あるいは未遂)が発生している犯罪である。捜査は、これらの結果が出た犯罪については、行為者から始まって、その背景には何があるのかということで進んで行き、共謀共同正犯にまでたどり着く。ところが、今後の共謀罪というのは、後ろの結果の部分がない。いきなり共謀のみが問題となる。結果から遡って捜査を進めてきた現場の捜査官とすれば、共謀というのは非常にやりにくい。本気になって捜査する気なら、特別の捜査官を作らざるを得ないだろう。たとえば、殺人事件があった時、犯人が捕まった、背景に何があるのか、単独犯か共犯か、共犯ならばどういう共犯なのか、という思考方法でわれわれは動いてきた。しかし、共謀罪を独立して処罰するということになると、実務家としては、捜査の端緒をどうやって掴むのかが問題になる。2人以上の人間が相談をして実行しようという実行以前の段階で、捜査の端緒を掴むのは難しいだろう。さらに、訴訟法の問題だが、捜査の端緒を掴んだ後の取調べは、供述に頼るしかない。人の内心の意思がどうであったか、意思の合致があったかどうかということの証拠は供述しかないが、結果が発生する前の段階の犯罪について、この供述の真実性をどのように担保するのだろうか。
 条約との関係でどうしても必要だというのが立法当局の説明であるが、多国間条約を結んで、これを国内法的に実施しようとすると、実際には難しいことが多い。共謀罪は犯罪の予防に役に立つ、実害が生じる前に捕まえると書いてあるが、実害が生じている振り込め詐欺は捕まえることができているのだろうか。現在の刑法犯全体の検挙数は30%前半で長期低落傾向にある。被害届が出ている事件ですら捕まえられていない。実害が生じているものも捕まえられていないのに、実害が生じていないものをどうやって捕まえるのだろうか。。
 実務家は、客観的に起こったことをどう評価するのか、あるいは、どう証拠化していくのかに苦労している。今度、共謀罪ができるとなると実務家はななり負担になるだろう。現実問題として、共謀罪というのは、少しら乱暴なことをしないと立件できない犯罪ではないか」刑法雑誌(46巻2号)より引用