白井聡氏 「トランプ体制で対米従属はますます露骨に」

白井聡氏 「トランプ体制で対米従属はますます露骨に」

このままでは、2017年は「世界は変わるけど日本は変わらない」ということになる可能性が高いですね。

 ブレグジット(英国のEU離脱)やトランプ大統領の当選で、従前のグローバリズムはもう限界、という意思表示がなされた。ではこの先、世界はどこへ着地していくのか、日本はトランプ大統領の米国とどう向き合うのか、ということですが、そこでおかしいのは、日本では常に議論が逆立ちしていることです。「米国がどうなりそうだから」という話ばかりで、「我々がどうしたいのか」という議論が一切ない。本来、「我々がどうあるべきか」が先でしょう。

 安倍首相がトランプ氏のところに一目散にすっ飛んで行ったことが、象徴的です。結局、我が国は誰が米国の大統領になろうが全く変わらない。「どんなケツでもなめます」ということを今回証明してみせました。
■争点さえはっきりさせれば与党は強くない

 トランプ体制では米国への従属がますます露骨になるでしょう。例えばTPP。本丸の米国に梯子を外され、極めて滑稽なのですが、ではTPPがなくなってよかったと言えるかというと、そうならない。おそらく米国は2国間FTA(自由貿易協定)で、日本国民の有形無形の富を吸い上げる姿勢をより鮮明にしてくる。今の政府はそれを押し返せやしないし、その意思もない。むしろ無理な要求でも全てのんでいくことが国益になると思っている節すらある。つまり、米国への従属性がさらに表面化するということです。

 安倍政治の行き詰まりは、内政外交全般にわたっていよいよ明確になってきました。アベノミクスは旗振り役が白旗を揚げるような状態です。外交では、私は日ロ交渉にとても注目していたんです。「永続敗戦論」を2013年に出版してから今まで、あの本で示した展望(耐用年数の切れた戦後レジームの無理やりの死守)から外れたことは何一つ起きていません。もし日ロが平和条約締結に向かうのなら、あの本で説明できないことが初めて起こることになり、実に興味深いと思っていました。しかし、驚くほど何もなかった。外交面での行き詰まりも明らかで、安倍政権はもう叩き壊す以外にない。
 では、どうしたら政権を崩すことができるのか。内閣支持率は高止まりしていますが、消極的に支持されているにすぎず、争点さえハッキリさせれば与党側は強くないことが、例えば新潟県知事選挙などで証明されています。自民と公明の協力関係も、都政やカジノ問題などでほころびが生じてきました。もっとも、誰が安倍首相にとって代わるのかといえば、今の民進党の中心にいる勢力にその力はない。やはり、新しい政治勢力が出てこないとダメだと思います。

 ただ、橋下徹氏のような単なる人気者ではダメ。レジーム転換のビジョンを持った人でなければ。例えば、前新潟県知事の泉田裕彦氏など、新たな旗印になり得る人は、政治の世界に何人かはいると思っています。

▽しらい・さとし 1977年生まれ。早大卒。一橋大院博士後期課程修了。現在は京都精華大専任講師。「永続敗戦論――戦後日本の核心」で石橋湛山賞