学問は現実にいかに関わるか [著]三谷太一郎

理想をあざ笑う現実主義。しかしそれは「現実」と「現在」との混同では?「書評:三谷太一郎『学問は現実にいかに関わるか』東京大学出版会」『朝日新聞』2013年03月31日付 
学問は現実にいかに関わるか [著]三谷太一郎
 日本近代政治史の研究者が、福沢諭吉吉野作造、大山郁夫、蝋山政道丸山眞男らを例に、学問と現実の関わりを考えた。福沢は、高い水準の「学問」を担う人間に「人望」が集まるとし、人望がなければ学問は用をなさないと述べた。学問の危機はしばしばそれを担う学者の人望の危機という形で現れる、との著者の指摘は重い。
 「現実」と「現在」を混同してはいけないともいう。様々な面をもつ「現実」の構造をとらえること。「現在」が永遠に続くと信じる権力崇拝によって曇らされない、状況判断能力を保つこと。それが学問の任務だという。表紙は、吉野の蔵書印がある『学問ノスヽメ』の「学者ノ職分ヲ論ス」。象徴的だ。
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 東京大学出版会・2940円