戦争を正当化する「論理」戦争と平和のリアル

戦争を正当化する「論理」
戦争と平和のリアル


戦争プロパガンダ(宣伝)の法則



 イギリスのアーサー・ポンソンビーという政治家は、1928年に刊行された著作『戦時の嘘』の中で、古今東西の権力者が新たな戦争を扇動したり、自国の行っている戦争を正当化する際に用いるプロパガンダ(政治宣伝)の手法を分析し、そこに共通する「論理」の構造を読み解いた上で、以下の10項目に整理しました。

(1)「われわれは戦争をしたくない」
(2)「しかし敵側が一方的に戦争を望んだ」
(3)「敵の指導者は悪魔のような人間だ」
(4)「われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う」
(5)「われわれも誤って犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる」
(6)「敵は卑劣な兵器や戦略を用いている」
(7)「われわれの受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大」
(8)「芸術家や知識人も正義の戦いを支持している」
(9)「われわれの大義は神聖なものである」
(10)「この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である」
  (アンヌ・モレリ『戦争プロパガンダ10の法則』永田千奈訳、草思社、2002年)

 現在の日本には、先の戦争を当時の日本政府の呼称に倣って「大東亜戦争」と呼び、あれは正しい戦争であって侵略ではない、と主張する人が少なからずいます。しかし、当時の東條英機内閣が国民向けの説明で繰り返した「戦争正当化の論理」を見ると、ほぼ完全に上の10項目と一致しているようです。
 こうした典型的な「戦争正当化の論理」は、既に始まった戦争だけでなく、将来に起こる戦争を呼び込む、あるいは戦争の炎となって燃え上がる前の「火種」を、国の指導者が意図的にくすぶらせる時にもよく用いられます。
 油断していると、新聞やテレビなどが日々報じるニュースによって、こうした「論理」が心の中に少しずつ入り込み、政治指導者が掲げる戦争肯定の論理に国民が何の疑問も抱かなくなるという、今までに数え切れないほど世界中で繰り返された事例が、現代の日本でも繰り返される可能性があります。
 メディアに流れる情報に、上の10項目と一致するようなものは無いか。もしあるとすれば、その数が以前より増えていないか。政治権力を握る指導者やその支持勢力が、批判する人間を威圧して黙らせるために、こうした論理を堂々と使い始めてはいないか。
 同時代の人間が「戦争に至る道」を避けるためには、こうした論理に目を光らせ、社会のささいな変化も常にチェックしておくことが必要になります。