もんじゅに最後通告

石井彰:
今日のテーマなんですけれども、先月11月13日に、あのあまり何もしない原子力規制委員会が、福井県敦賀市にある高速増殖炉もんじゅの運営主体を日本原子力研究開発機構から変えなさいというふうに、所管する文部科学省に勧告をしたということなんですが、これを小出さんはどうご覧になってらっしゃいます?
小出さん
はい、あまりにも遅すぎた。本当だったらもうずっと前にこのような勧告を出さなければいけなかったはずだと私は思います。ようやくにして出たということ、そのことはどちらかと言えばいいことだとは思いますけれども、遅すぎたと私は思います。
石井:
こういう勧告っていうのを出したことは、今までにあるんですか?
小出さん
ありません。もともと原子炉というのは設置許可というものを与えるわけですけれども、与えた許可を取り消すという条文が法律にないのです。
本当だったらその許可を与えたけれども、この原子炉はダメだからといって取り消すというのが一番まっとうなやり方だと思うのですけれども、そのような法律的な裏付けがありませんので、仕方がなくて勧告というようなやり方をとったわけです。
石井:
なるほどね。少し技術的、科学的なことをお伺いしたいんですが、実は根本的な問題がいくつかあるそうですね。
小出さん
はい、たくさんあります。もんじゅというのは、高速増殖炉という原子炉の実験的な原子炉なのですが、高速という言葉は、まずは高速中性子というですね、現在の原子力発電所で利用してる中性子とはちょっと違うスピードの速い中性子を利用しますという、そういう意味が高速です。
そして増殖というのは、燃えたプルトニウム以上にもっと多くのプルトニウムが生み出されるのだという夢のような話の原子炉なのです。
なぜ、こんな原子炉を造らなければいけなかったかと言うと、現在の原子力発電所で利用してるウランというものは、質量数235というウランを燃やせるだけなのです。ただし、ウラン全体の中で質量数235のウランはわずか0.7パーセントしかありませんで、現在のような原子力発電をやってる限りは、地球上のウランは簡単に枯渇してしまうということがもう昔からわかっているのです。
そうなると、ウランの中の全体の99.3パーセントというのは質量数238のウランというのが占めているのですが、それは現在の原子力発電所の原子炉では燃やすことができないのです。それをプルトニウムという物質に変えて、それを高速増殖炉で燃やそう、それができるのであれば、原子力の資源の量が60倍に増えるのだと。
そうなると、ようやく化石燃料に匹敵する程度にはなるかもしれないという、そんな期待の下で高速増殖炉というものを開発しようということになったのです。そのことは原子力開発の一番初めからわかっていまして、高速増殖炉が開発できなければ、原子力なんていうものは簡単に資源がなくなってしまうということで、米国にしてもロシアにしてもイギリスにしてもフランスにしても、何としても高速増殖炉を造りたいと思って開発を始めたのですが、あまりにも難しくて、全ての国がもう撤退してしまったというそういう原子炉なのです。
未だに高速増殖炉にしがみついてるのはもう日本だけ、中国とかですね、そういう国がやるという話はありますけれども、長い間やり続けてきて、未だに諦めもしないというのは日本だけになってしまっています。
石井:
特に、冷却剤に使っている液体ナトリウムというのは非常に管理が難しいそうですね。
小出さん
そうです。ナトリウムというのは、通常の温度ですと銀白色をした固体なのです。熱をかけていきますと液体になると。それをグルグル原子炉の中を回して、炉心を冷却しようという技術なのですけれども、ナトリウムというのは水に触れると爆発してしまうのです。
空気中に出しておくと、今度は発火して火事になるという、そういうやっかいな物質でして、例えば大学の研究室、実験室で使う時には、0.何グラム、あるいは1グラムなんていうものを使うとなると、かなり注意を払ってやらなければいけないのですが、もんじゅという原子炉では1000トンものナトリウムを液体にして、ぐるぐるぐるぐる原子炉の中を回すというような、途方もない危険を抱えたものなのです。
石井:
小出さんに伺いたいのは、このままもんじゅ廃炉というふうになっていくんでしょうか?
小出さん
難しいご質問ですけれども、規制委員会が今まで通り、日本原子力研究開発機構に任せてはいけないと、別の組織に任せるしかないという、そういう勧告を出したわけで、そうなりますと、文部科学省としては別の研究組織というのをどこからか探してこなければいけないのです。
しかし、ないと思います。日本原子力研究開発機構というのは、もともとは日本原子力研究所と動力炉核燃料開発事業団というような2頭立ての馬車でこれまで日本の原子力を進めてきたのですが、その2頭立ての馬車のうち、動力炉核燃料開発事業団という組織がもんじゅを運営してきたのです。
それがもう全くダメな組織であったがために、初め別々だったものがですね、統合させられて今、日本原子力研究開発機構になったわけですけれども。それがもしダメだったとなると、たぶんもう他には担える組織が日本にはないという、そういう状態だと私は思います。
でも、私自身はまた別の力学というのがあると思っていて、もんじゅは最後には生き延びるのではないかと思っています。なぜかと言うと、原子炉というのはもともと核兵器の材料であるプルトニウムを造るための道具だったのですけれども、もんじゅという原子炉を動かすことができると、核分裂性のプルトニウムの割合が98パーセントという、超優秀な原爆材料が自動的に手に入るというそういう原子炉なのです。
それを目指してやってきた人達というのは、私は必ずいると思いますので、もんじゅというのは何としても生き延びさせると、なにがしかもんじゅを生き延びさせるための方策をまた考え出してくる可能性はあると思います。
石井:
ありがとうございました。
小出さん
はい、ありがとうございました。






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