2015年7月10日)開かれた、「安保法案 東京大学人緊急抗議集会

2015年7月10日)開かれた、「安保法案 東京大学人緊急抗議集会
佐藤学氏(元教育学部長、名誉教授、学習院大教授)
湾岸戦争以来、戦争で失われた子どもの死者数は200万超。安倍首相は普通の国、つまり戦争できる国になると言うが、戦争の犠牲となるのはいつも子どもや若者たちだ。東大からは学徒出陣で3,304名が出征し、そのうちわかっているだけでも1,659人が命を落とした。実際には7割くらいは亡くなっていると言われている。私は皆がそのことを記憶に刻み続けるために、東大・安田講堂の前に、戦没学徒のための墓碑を作るべきだとずっと思ってきたが、私の東大在任期間にはついになしえなかった。私たちの学問が、一体誰のためにあるのか、それは決して国家のためではない、次の世代の社会と人々を真に幸福にするためにこそ学問をしているのだということを、私たちはつねに胸に刻んでいなければならないと思います。今日はこれからSEALDsの国会前集会でも挨拶を求められていますので、これで失礼させていただきます。」
高橋哲哉氏(総合文化研究科教授)
「私はこの駒場に勤めて30年になりますが、学生と教職員が手を携えてこういう集会をもつのは今回が初めてなんです。それだけ安倍政権に対する大学人の危機感が大きいのだと思いますが、こういう機会に、教員と学生がともに集い、我々の学問が、今の社会に果たすべき役割を考える意義は大きいと思っています。ナチスが作った全権委任法の第2条には、「ドイツ政府によって制定された法律は、憲法に違反することができる」と書いてあります。これは安倍晋三が今やっていることと同じだと言わねばなりません。2004年に安倍晋三が出した対談本『この国を守る決意』には、「我々には新たな決意がある。日米同盟を双務性からなる血の同盟にしなくてはならない」と書いてある。安保法制の議論では、自衛隊員のリスクは高まらないと説明しているが、実際に彼らが目指しているのは、自衛隊員も血を流し、リスクを確実に上げることになる「血の同盟」なんです。また同じ本では「靖国参拝を我々がしなければ、国のために血を流してくれる人が居なくなってしまう」とも言っている。つまり靖国問題も、戦争法の問題との関わりのなかで見なければならないということなんです。」
伊藤真氏(弁護士、伊藤塾塾長)
「戦争は最大の人権侵害です。ですから人権擁護と社会正義の実現という使命を負ってる我々弁護士、法律家たちがこぞって戦争法に反対するのは、きわめて当然のことなんですね。政府が持ち出している砂川判決が、集団的自衛権行使容認の根拠となり得るなんていうことは、法律を学んだことがある者であれば、誰も思っていない、法律家の常識です。そんな常識もかえりみず、本来であれば知的エリートでなければならない為政者の皆さんが、ここまで憲法を無視して、何度でも繰り返せば嘘も真実になるだろうと、同じ嘘を繰り返し、繰り返し言い続ける。私たちの国はこんな国だったのかと、ほんとうに驚きます。
 憲法というのは、一人一人が個人として尊重される、そのために最高法規として作られた憲法が、権力者をその暴走をふせぐために縛るという、この立憲主義の考え方は、今から800年も前(1215年)のマグナカルタ以来の考え方なんですね。この800年の人類の叡智ともいえるのが立憲主義の考え方なんです。今政府がやろうとしていることは、日本の憲法に対する冒涜であるだけでなく、まさに人類の叡智に対する冒涜であり、こんなことが許されることは絶対あってはならないことなんです。
 私たちの憲法はその前文の第一文で、憲法制定の目的を2つ掲げています。「わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し」、すなわち、自由のありがたさが国のすみずみまで確実に行き渡って国民の人権が保障されるために憲法を作ったんだというのが1つ目の目的。もう1つの目的は「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにする」、つまり二度と政府に戦争をさせない、そのために私たち日本国民は憲法を作ったというんですね。自由と人権、そして政府に戦争をさせないということ、この二つのことは密接不可分で、決して切り離すことは出来ません。憲法9条「戦争の放棄」というのは、自由の下支えなんです。私たちが自由にものを言い、生活できるためにも、政府に二度と戦争はさせてはならないんだということ。そしてその二つの目的を実現する手段がその次に続く「ここに主権が国民に存することを宣言し」というこの部分なんです。私たち国民ひとりひとりが、主体的に行動することで、この二つの目的を実現します、そのことを明確にするために憲法を作った。安全保障や外交を考え、国民の生命や財産を守るのは、政治家の仕事です。しかし彼らのその仕事は、主権者である私たち国民が与えた権限のなかで、この憲法の歯止めのなかで実現する。それが立憲主義の考え方にほかなりません。」