「テロリズムに抗する思想 アルベール・カミュに学ぶ=寄稿・桃井治郎」『毎日新聞』2015年4月20日付夕刊


テロリズムに抗する思想 アルベール・カミュに学ぶ=寄稿・桃井治郎」『毎日新聞』2015年4月20日付夕刊

反抗」と「革命」を区別するカミュ。その「反抗」論は、こうした暴力の連鎖に陥ることなく、社会の改善をはかろうとする態度である

フランス植民地主義を鋭く批判しつつも、FLNを支持しなかったカミュ……。小説『異邦人』において、理屈では説明がつかない現実における「不条理」を描いた作家として知られるが、カミュに思想にはもうひとつ重要な概念がある。それが小説『ペスト』において描かれた「反抗」である。
カミュ『ペスト』の)主人公の医師リウーは、「不条理」な状況に対し、絶望してすべてをあきらめてしまうのでも、神に救済を祈るのでもなく、命を守るために自らの職務を果たすべきだと説く。それは「際限なく続く敗北」だと認めるが、それでも「戦いをやめる理由にはならない」とリウーは述べる。
容認できない現実に対して拒否(ノン)の声を上げ、行動するというこのリウーの態度こそ、カミュの言う「反抗」である。そして、人間共通の護るべき領域の存在によって「反抗」には連帯が生まれるという。『ペスト』では自発的な保健隊の活動が描かれている。
ただし、カミュは「反抗」と「革命」を区別する。「反抗」が、容認できない現実から出発して漸進的な改善をはかるのに対して、「革命」は、絶対的な正義から出発してその正義をむりやり現実化しようとする。
(絶対的な正義から出発し正義をむりやり現実化しようとする革命)その結果、上からの正義の実現を目指す「革命」には必ず暴力が付随し、正義と正義のぶつかり合いによる絶滅戦に至ってしまうのである。カミュの「反抗」論は、こうした暴力の連鎖に陥ることなく、社会の改善をはかろうとする態度である
それは「際限なく続く敗北」であるかもしれないが、それのみが暴力やテロリズムを排して社会を改善する唯一の方法であるとカミュは説く。
不条理な現実に対してとるべき態度は……、現実に絶望してあきらめてしまうことでも、絶対的正義を掲げてテロリズムを力で根絶しようとすることでもなく、暴力や恐怖によって社会を変えようとする暴力主義に「ノン」と声を上げて拒絶し、暴力を容認しない社会を一歩づつ作り上げていくことにある


























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